痩せていても脂肪肝。あなたは大丈夫?

消化器科

はじめに

非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は、世界人口の約4分の1に影響を及ぼす公衆衛生上の巨大な課題です。一般に、脂肪肝は過体重や肥満の結果と考えられがちですが、実際には標準体重の個人においても発症します。これが「痩せ型NAFLD(Lean NAFLD)」と呼ばれる病態です。

定義上、コーカサス人※ではBMI 25 kg/m2未満、アジア人ではBMI 23 kg/m2未満を「Lean(痩せ型)」と呼び、これよりやや広い範囲として「Non-obese(非肥満:コーカサス人でBMI 30未満、地アジア人でBMI 25未満)」というカテゴリーも存在します。驚くべきことに、全NAFLD患者の約10%から20%がこの痩せ型に分類されます。見た目は健康そのものである彼らの体内では、肥満者と同等、あるいはそれ以上に深刻な代謝の崩壊が進行しているのです。

※コーカサス人(Caucasians)は、医学研究において一般的にヨーロッパ、西アジア、北アフリカなどにルーツを持つ白人系の人々を指します。

疫学から見る「見えない」リスクの全貌

痩せ型NAFLDの有病率は地域によって3%から30%と幅がありますが、世界的なメタアナリシスによれば、一般人口における有病率は約5.1%と推定されています。これは、太っていないからといって肝疾患から免れるわけではないことを明確に示しています。

特に注目すべきは、診断の難しさです。多くの疫学的調査ではスクリーニングに超音波検査が用いられますが、この手法は肝脂肪化が30%未満の軽症例を見逃す傾向があります。プロトン磁気共鳴スペクトロスコピー(1H-MRS)のような、より高感度な手法を用いた研究では、非肥満者のNAFLD有病率が19.3%に達したという報告もあり、現状の診断基準では「隠れ脂肪肝」が相当数存在している可能性を否定できません。

分子レベルで解明される脂肪肝の病態生理

遊離脂肪酸(FFA)の肝臓への流入

肝臓への過剰な遊離脂肪酸(FFA)の流入がNAFLDの核心です。そのソースは主に3つあります。まず、末梢脂肪組織の脂肪分解によるものが全体の約60%を占めます。次いで、食事由来が15%、そして肝臓内での新規脂質合成(DNL)が26%です。

末梢脂肪組織の脂肪分解 約60%
食事由来 15%
肝臓内での新規脂質合成(DNL)26%

インスリン抵抗性による加速

分子生物学的視点で見ると、インスリン抵抗性がこのプロセスを加速させます。高インスリン血症は転写因子SREBP-1cの過剰発現を招き、脂質合成に関連する鍵酵素を活性化させます。この結果、蓄積されたFFAがミトコンドリアのベータ酸化能を上回り、活性酸素種(ROS)の生成を招きます。さらに、脂質毒性を持つリゾホスファチジルコリン(LPC)やジアシルグリセロール(DAG)、セラミドといった物質が生成され、これらが小胞体ストレスやインフラマソームの活性化を引き起こし、肝細胞のバルーニングや線維化を促進します。

肝細胞内では、PKC-δイソフォームが細胞質から膜コンパートメントへトランスロケーションし、肝インスリン受容体基質(IRS)に関連するPI3K活性を阻害します。これが肝臓のインスリン抵抗性をさらに悪化させるという、負のスパイラルが形成されるのです。

筋肉と遺伝子、そして腸内細菌の三位一体

痩せ型NAFLDに特有、あるいはより顕著な要因として、以下の3つの要素が挙げられます。

内臓脂肪の分布とサルコペニア(筋肉減少症)

第一に、内臓脂肪の分布とサルコペニア(筋肉減少症)です。BMIが正常であっても、皮下脂肪に対して内臓脂肪(VAT)の割合が高い場合、門脈へ流入するFFAは急増します。健康な痩せ型ではVATからのFFA寄与率は5〜10%ですが、内臓脂肪型肥満の痩せ型ではこれが50%にまで達します。
さらに、筋肉量の減少は糖代謝能を低下させるだけでなく、抗脂肪肝作用を持つマイオカイン「イリシン」の分泌低下を招きます。逆に、骨格筋の分解を促進する「マイオスタチン」の上昇は、肝星細胞を直接活性化し、線維化を促進する因子となります。

遺伝的素因:PNPLA3遺伝子

第二に、強力な遺伝的素因です。PNPLA3遺伝子のrs738409多型は、肝臓内でのトリグリセリド加水分解能を低下させ、体重に関わらず脂肪蓄積を誘導します。
また、TM6SF2の変異やCETP、SREBF-2などの多型も、痩せ型における発症リスクを有意に高めることが示されています。

腸内細菌叢の乱れ(ディスバイオシス)

第三に、腸内細菌叢の乱れ(ディスバイオシス)です。痩せ型の非アルコール性脂肪肝炎(NASH)患者では、RuminococcaceaeやLactobacillusの減少、およびVeillonellaceaeの増加が観察されています。これにより、腸管透過性が亢進し、エンドトキシンが肝臓へ流入することで炎症が引き起こされます。これが、悪化(進行)を加速させる要因となり得るのです。

予後と死亡率:痩せ型はむしろハイリスクか

死亡リスク2倍?

この論文が提示する最も衝撃的なデータの一つは、死亡率に関するものです。米国のNHANES III調査の分析によれば、非肥満のNAFLD患者は肥満のNAFLD患者と比較して、15年累積全死亡率が51.7%対27.2%と、約2倍近い数値を示しました。

心血管疾患リスクも高い?

また、心血管疾患(ASCVD)のリスクスコアが10%を超える割合も、痩せ型NAFLD患者(51.6%)は肥満型NAFLD患者(39.8%)や非NAFLD群(25.5%)よりも高いという結果が出ています。
これは、「痩せているから大丈夫」というバイアスが、早期発見や積極的な介入を遅らせ、結果として最悪の予後を招いている可能性を強く示唆しています。

臨床現場での診断と今後の治療戦略

診断フロー

診断の第一選択は腹部超音波検査(エコー)であることは間違いありませんが、超音波検査は、肝臓の脂肪蓄積が30%未満の場合、診断精度が低下する特性があります。
現在のガイドラインでは、痩せ型に特化した診断フローは確立されていません。
予後(死亡率や心血管リスク)を決定づけるのは脂肪の量ではなく、肝線維化(肝臓の硬化)の進行度です。FIB-4スコアやNAFLD線維化スコア(NAFLD fibrosis score;NFS)といった簡易的なスコアリングシステムに加え、必要に応じて一過性エラストグラフィ(FibroScan)を用いることで、肝線維化の進行度を評価することが推奨されます。FIB-4、NFSは基本的な採血項目等から簡便に算出することができます。
・FIB-4 Index = (年齢×AST) / (血小板数×√ALT)
・NFS = -1.675 + (0.037年齢) + (0.094BMI [kg/m²]) + (1.13耐糖能異常/DM [はい=1, いいえ=0]) + (0.99AST/ALT比) – (0.013血小板数[×10⁹⁾/L]) – (0.66Alb [g/dl])

治療

治療の柱は、依然としてライフスタイルの修正です。驚くべきことに、わずか3〜5%の体重減少でも脂肪化の改善が見られ、7〜10%の減少でNASHの組織学的特徴が改善することが示されています。

薬物療法においては、PPAR-γアゴニストであるピオグリタゾンが、内臓脂肪の減少とインスリン感受性の向上に寄与します。また、新規糖尿病薬であるSGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬も、肝脂肪量の減少や抗炎症作用が期待されています。特にビタミンEは、糖尿病を合併しないNASH患者において炎症の改善に有効であるとのエビデンスがあります。

実践的アプローチ:明日から何をすべきか

この論文から得られる知見を、知的な読者が実生活に活かすための具体的な行動指針を提示します。

  1. 内臓脂肪の意識的コントロール:BMIが25未満であっても、腹囲が増加している場合は黄色信号です。内臓脂肪は皮下脂肪よりも代謝的に活性であり、肝臓への毒性が高いことを認識してください。
  2. 3%の「質的な」減量:すでに標準体重であっても、もし脂肪肝が疑われる場合は、現在の体重の3%(例えば60kgの人なら1.8kg)を減らすことを目標にしてください。このわずかな変化が、肝臓の分子レベルでの炎症を劇的に沈静化させる可能性があります。
  3. 地中海食の採用:オメガ3脂肪酸や一価不飽和脂肪酸を多く含み、精製された糖質を避ける地中海食は、体重減少を伴わなくても肝脂肪化を改善する効果が期待できます。
  4. 筋力トレーニングによる代謝の担保:有酸素運動だけでなく、レジスタンストレーニングによって筋肉量を維持・増加させてください。筋肉は余剰なエネルギーを消費する「燃焼炉」であり、サルコペニアの防止が脂肪肝の進行を食い止めます。
  5. 定期的な肝機能数値の精査:健康診断で「ALT(GPT)」が基準値内であっても、過去の自分と比較して上昇傾向にないか確認してください。痩せ型では数値の変化が緩やかであっても、内部で線維化が進んでいるケースがあります。

新規性と本レビューの限界

本レビューの新規性は、これまで「肥満の随伴症状」として軽視されがちだったNAFLDを、特定の表現型(痩せ型)に焦点を当てて再定義し、その死亡リスクが肥満型を上回る可能性があるという「痩せ型NAFLDの逆説」を最新のデータで裏付けた点にあります。

一方で、本研究の限界(Limitation)も明記しておく必要があります。第一に、多くの疫学データが超音波検査に依存しており、軽度の症例が過小評価されている可能性があることです。第二に、痩せ型NAFLDに対する薬物療法の臨床試験の多くは、肥満型患者を対象としたデータのサブグループ解析や動物モデルに基づいており、痩せ型のみに特化した大規模なランダム化比較試験(RCT)がいまだ不足している点です。

最後に

痩せ型NAFLDは、内臓脂肪の蓄積と筋肉減少(サルコペニア)を背景に全死亡リスクを高める深刻な病態です。 治療の基本は生活習慣改善による内臓脂肪とインスリン抵抗性の解消ですが、今後はPPAR作動薬やGLP-1受容体作動薬などの有効性を確立するための専用の臨床試験が不可欠です。

参考文献

Kuchay, M.S.; Martínez-Montoro, J.I.; Choudhary, N.S.; Fernández-García, J.C.; Ramos-Molina, B. Non-Alcoholic Fatty Liver Disease in Lean and Non-Obese Individuals: Current and Future Challenges. Biomedicines 2021, 9, 1346. https://doi.org/10.3390/biomedicines9101346

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