Apple Watchによる血中酸素飽和度の測定精度

Digital Health

Apple Watch はSeries 6以降、血中酸素飽和度(SpO₂)(Appleは「血中酸素ウェルネス」と言っています)を測定する機能を搭載し、より進化した健康管理ツールとして注目を集めています。
特に、睡眠時無呼吸症候群や慢性疾患を心配する方にとって、酸素飽和度のモニタリングは重要です。しかし、この機能がどの程度信頼できるか、またどのように活用すべきかを理解することが重要です。ここでは、2023年のWindischらの系統的レビューをもとに、Apple Watchの精度、課題、そして応用の可能性を解説します。


Apple Watchの血中酸素飽和度測定技術:反射型パルスオキシメトリーとは?

Apple Watch Series 6は、反射型パルスオキシメトリーという技術を採用しています。この技術では、光を皮膚に照射し、その反射光を測定してSpO₂を推定します。一方、医療用のパルスオキシメーターは透過型で、指先や耳たぶを通過する光を測定タイプが主流です。

  • 反射型の特性:
    • 手首に装着する利便性がある一方で、血流や皮膚の特性が信号に影響を与えることがあります。
    • Apple Watchでは、反射光の変化が小さいため、測定には一定の誤差が伴います。

系統的レビューの結果:Apple Watchの精度と限界

Windischらが5つの研究(合計973人の被験者)をレビューした結果、Apple Watch Series 6の血中酸素飽和度測定の精度は以下のように評価されています。

測定精度と誤差

  1. 測定一致率(95%信頼区間):
    • Apple Watchによる測定値は、医療用オキシメーターと比較して-2.7%から+5.9%の範囲内で一致することが報告されています。
    • 各研究において、成人は相対的に良好で、
    • -2.7%~+4.1%
    • -3.5%~+3.0%
    • 小児では、
    • -7%~+5% などと相対的に劣る結果になっています。
  2. 外れ値の存在:
    • 時々、最大15%にもなる誤差が観察されました。原因は不明ですが、体動、周囲の光、皮膚の状態(汗、タトゥー、乾燥、肌の色など)、装着不良、血流の変化、不整脈などの可能性があげられます。
  3. 相関係数:
    • 相関係数(Pearson’s correlation coefficient)は、2つの変数がどの程度「線形的な関係」にあるかを示す指標です。
    • 医療用オキシメーターとの相関係数は0.76(小児)~0.89(成人)(中程度から高い相関)で、比較的信頼性が高いことが示されています。
    • ちなみに、動脈血液ガス(ABG)分析と医療用パルスオキシメーター(SpO₂)の酸素飽和度の相関係数(Pearson)は、通常 0.9~0.995 の範囲にあります。この値は非常に高い相関を示しており、パルスオキシメーターが臨床的に十分信頼できるツールであることを意味します。
    • Apple WatchのSpO₂測定と医療用パルスオキシメーターの相関係数(0.76~0.89)は、ABGとパルスオキシメーター間の相関(0.9~0.995)よりも低いです。精度が求められる医療の場においては、Apple Watchは医療診断には不十分であり、一般的な健康管理の参考値として活用することが適切です。

患者の特徴と測定成功率

  1. 成人患者:
    • 平均年齢:64歳
    • 成功率:ほとんどのケースで測定が成功し、信頼性の高いデータが得られました。
  2. 小児患者:
    • 平均年齢:7.2歳
    • 測定不能率:約14%の小児で測定が失敗。体格に応じて、手首以外の部位(手の平、足の甲など)で測定が行われたケースもありました。
  3. 呼吸器疾患患者:
    • 対象:COPDや間質性肺疾患の患者。
    • 医療用オキシメーターによるSpO₂の平均値は94.4%で、Apple Watchでは95.9%とやや高めの値が観察されました。測定そのものは成功しています。

臨床応用の可能性:健康管理と疾患モニタリング

Apple Watchは医療診断には限界がありますが、日常的な健康管理や疾患モニタリングの補助ツールとして有用です。

睡眠時無呼吸症候群の検出

  • 長期的なトレンドの把握:
    • Apple Watchは、夜間のSpO₂変化を記録することで、無呼吸症候群の兆候を示すデータを提供できます。
    • ただし、測定が断続的であるため、急激なSpO₂低下をリアルタイムで検出することは困難です。
  • 診断のきっかけ:
    • 夜間就寝時に(一度ではなく)再現性を持って、SpO₂値が基準範囲(通常90%)を下回ることが生じる場合、医療機関での精密検査をお勧めします。

慢性疾患のモニタリング

  • 疾患進行の監視:
    • 慢性呼吸器疾患の患者において、酸素飽和度のトレンドを観察し、治療効果や病状の進行を評価するのに役立つ可能性があります。
  • 日常生活の健康指標:
    • 運動やリハビリテーションの効果を測定するツールとしても有用です。ただし、激しい運動ですと測定精度が低下します。

課題と今後の展望:精度向上への期待

Apple Watchの血中酸素測定の精度をさらに向上させるためには、以下の課題に取り組む必要があります。

  1. 測定方法の標準化:
    • 測定手法やデータ報告形式を統一することで、研究間の比較を容易にし、信頼性を高めることが可能です。
  2. データ共有の推進:
    • 個別患者データの公開を進めることで、精度の検証やさらなる研究が促進されます。
  3. バイアスの検証:
    • 皮膚の色や体格、測定環境が結果に与える影響を詳細に調査することが求められます。

Apple Watchを効果的に活用する方法

Apple Watchは(しつこいですが)医療的な診断はできません。しかし、効果的に活用すべく、日常的な健康管理に取り入れるための提案を以下に示します。

  1. 長期的なトレンド分析:
    • 個々の値に一喜一憂するのではなく、大まかな変化を観察することで、睡眠時無呼吸症候群のスクリーニングや、生活習慣の改善指標として活用します。
  2. 適切な装着:
    • 精度が少しでも上がるように、Apple Watchを確実に密着させ正しく装着することが極めて重要です。装着が不適切ですと、値の信頼性が著しく低下します。

結論:日常の健康管理における希望

Apple Watch Series 6は、医療機器ではなく、その精度にも限界があります。しかし、ウェルネスツールとして日常的な健康管理に大きな可能性を秘めています。そのデータの限界を理解しつつ、正しく活用することで、健康リスクの早期発見やライフスタイルの改善が期待できます。科学とテクノロジーを味方につけて、より健康的で希望に満ちた生活を送りましょう。

参考文献

Windisch P, Schröder C, Förster R, Cihoric N, Zwahlen DR. Accuracy of the Apple Watch Oxygen Saturation Measurement in Adults: A Systematic Review. Cureus. 2023 Feb 23;15(2):e35355. doi: 10.7759/cureus.35355. PMID: 36974257; PMCID: PMC10039641.

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