LDL-C/HDL-C比(LH比)を活用することでより精度の高い冠動脈疾患リスク層別化が可能になる

脂質代謝

はじめに

冠動脈疾患(CHD)は依然として世界的な死亡原因の上位を占めており、その発症メカニズムの根幹には動脈硬化があります。これまで、LDL-C(低比重リポタンパクコレステロール)やHDL-C(高比重リポタンパクコレステロール)といった単一の脂質指標に基づいてCHDのリスクを評価してきました。しかし近年では、それらの「比率」、すなわちLDL-C/HDL-C比(以下、LHR)が、より正確かつ包括的なリスク評価指標として注目を集めています。

今回紹介する2024年のメタアナリシスは、過去20年間に発表された12の症例対照研究(計5544名)を統合し、LHRとCHDの関連性を定量的に解析しています。


LDL-CとHDL-Cの二律背反:リポタンパクの役割を再考する

LDL-Cは肝臓から末梢組織へのコレステロール輸送を担う一方で、過剰になると血管内皮に沈着し、マクロファージとの相互作用を通じて泡沫細胞を形成し、プラークを進展させます。これに対しHDL-Cは、末梢組織から肝臓への「逆コレステロール輸送」を担う抗動脈硬化的な作用を持ちます。LHRはこれら相反する作用のバランスを一つの指標に集約したものであり、動脈硬化の進行度をより忠実に反映すると考えられています。

分子レベルでは、HDL-Cの小型化(HDL3b、pre-β1-HDLの増加)や大型HDL(HDL2a、HDL2b)の減少が進行すると、逆コレステロール輸送の効率が低下し、動脈硬化の抑制機構が破綻します。研究ではLHRの上昇とともにこのHDLサブクラスの変動が観察されており、単なる数値的な比率ではなく、脂質代謝の質的変化をも示唆する重要な指標であることが明らかになっています。

研究方法と対象

この研究は、PRISMA声明に準拠したシステマティックなアプローチで実施されました。PubMed、Embase、Web of Science、中国国立知識インフラ(CNKI)などのデータベースを網羅的に検索し、2023年6月15日までに発表された研究を対象としました。合計12の研究(参加者5,544名、CHD患者3,009名)が選ばれ、ランダム効果モデルを用いて解析が行われました。CHDの診断は冠動脈造影により50%以上の狭窄が確認された場合と定義され、対照群は他の代謝疾患のない健康な参加者で構成されました。


主要な結果

LDL-C/HDL-C比(LHR)とCHDの関連

本研究において、CHD患者群は非CHD群と比較して、平均で0.65(95%CI: 0.50–0.80)高いLHRを示しました。この結果は、個々の脂質値が正常範囲内にあっても、LHRという比率でみるとCHDリスクの指標としてより明確な違いが表れることを意味します。

TG/HDL-C比の意義

さらに、8件の研究ではTG/HDL-C比についても検討され、こちらもCHD群で0.54(95%CI: 0.40–0.67)高くなることが示されました。これは、LHRとTG/HDL-Cがともに動脈硬化に関連する「アテロゲン・プロファイル」を反映していることを支持する結果です。

臨床応用と明日からの実践

従来の脂質管理ではLDL-CやHDL-Cを個別に評価していましたが、LHRを活用することでより精度の高いリスク層別化が可能になります。特に、LDL-CやHDL-Cが基準範囲内であっても、LHRが高い場合はCHDリスクが高い可能性があります。
LHRを日常診療でのリスク層別化や一次予防のターゲットとして積極的に活用すべきであることを示唆しています。特に以下のような状況でのLHRの測定が有用です。

  • LDL-Cが基準範囲内でもCHDリスクを疑う場合
  • HDL-Cが軽度に低下している場合
  • 家族性高コレステロール血症のスクリーニングにおいて

おわりに

LDL-C/HDL-C比は冠動脈疾患と強く関連しており、従来の脂質マーカーを補完する有用な指標となり得ます。臨床現場では、脂質比を積極的に活用することで、より個別化されたリスク評価と治療戦略の構築が可能です。


参考文献

・Hu S, Fan H, Zhang S, et al. Association of LDL-C/HDL-C ratio with coronary heart disease: A meta-analysis. Indian Heart J. 2024;76:79–85. https://doi.org/10.1016/j.ihj.2024.01.014

・Linton MRF, Yancey PG, Davies SS, et al. The Role of Lipids and Lipoproteins in Atherosclerosis. [Updated 2019 Jan 3]. In: Feingold KR, Ahmed SF, Anawalt B, et al., editors. Endotext [Internet]. South Dartmouth (MA): MDText.com, Inc.; 2000-. Available from: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK343489/

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