オンラインの血圧測定画像は嘘だらけ? オンラインで流通する血圧測定写真の6枚に1枚しか正確でない

血圧

序論

血圧測定は臨床現場で最も頻繁に行われる検査の一つであり、高血圧診療の根幹をなしています。ところが、国際ガイドラインに従わない測定法は、実際の血圧値を±30 mmHg近くも歪める可能性があると報告されています。本研究は、主要ストックフォトサイトに掲載されている血圧測定写真の正確性を、2023年国際コンセンサス基準に基づいて体系的に評価した初めての試みです。この結果は、単なる写真の精度を超えて、日常診療や一般市民の行動に直接影響を及ぼし得るものです。


方法

2024年7月に主要な11のストックフォトサイト(iStock, Adobe Stock, Getty, Shutterstockなど)を検索し、成人を対象とした血圧測定写真1106枚を収集しました。評価は2名の独立したレビュアーが行い、不一致は合議で解決しました。評価基準は以下の9〜10項目です。

  1. 患者が会話・笑いをしていない
  2. 医療者が会話・笑いをしていない(第三者測定の場合)
  3. 患者が座位である
  4. 前腕が机上などで支持されている
  5. 上腕が心臓レベルにある
  6. 背もたれで支持されている
  7. 脚を組んでいない
  8. 足が床に平らに置かれている
  9. カフが素肌に直接巻かれている
  10. 上腕用電子式血圧計を使用している

すべての基準を満たす場合に「正確」と判定されました。


結果

全体的な正確性

  • 1106枚のうち、全基準を満たしたのは 14.3% にとどまりました。
  • サイト別では、iStockが最も高く 27.7%、FlickrとFreepikが最低で 7.0% でした。

測定環境・測定者による差

  • 家庭での測定写真は 25.3% が正確で、医療機関などの臨床環境(7.9%)より有意に高い(P<0.001)。
  • 患者自身による測定写真は 35.4% が正確で、医療者による測定(7.2%)を大きく上回りました(OR 6.97, 95% CI 4.70–10.33)。(ただし、写真の医療者が本当の医療者かどうかは不明です。)

誤りの典型例

  • 背もたれがない:73%
  • 前腕が机に置かれていない:55%
  • 手動式デバイスの使用:52%
  • 足が床に接していない:36%
  • 測定中の会話・笑い:医師23%、患者18%
  • 上腕が心臓レベルにない:19%
  • カフを衣服の上から装着:12%

感度分析

デバイス基準を除外すると、全体の正確性は 26.9% に上昇しましたが、それでも正確性は依然として低く、自己測定写真の優位性は維持されました。


考察

本研究の最大の発見は、「オンラインで流通する血圧測定写真の6枚に1枚しか正確でない」 という点です。特に医療現場を描いた写真で誤りが目立ち、背もたれや前腕支持の欠如が典型的でした。

この現象には「ピクチャー・スーペリオリティ効果」が関与します。人は文章よりも画像を強く記憶するため、誤った画像が繰り返し提示されれば、それが「正しい方法」と誤認されやすくなります。実際、家庭血圧測定を行う患者の多くが「インターネットで見た方法」を参考にしていると報告されており、このことが誤測定の温床になり得ます。

臨床的影響も深刻です。血圧測定の誤差が5 mmHg生じるだけで、米国では最大 4800万人 が誤分類されると推定されています。誤測定は診断の遅れや治療惰性につながり、高血圧管理の成否を左右します。


公衆衛生教育への示唆

本研究は、以下の具体的行動を促します。

  • メディアや医療機関は、掲載する写真がガイドラインに準拠しているかを確認する。
  • ジャーナリストや広報担当者も、テキストだけでなく「画像の正確性」を監修する。
  • 医療者は、患者に自己測定を指導する際、視覚教材に誤った写真を用いないよう注意する。
  • 一般市民は、オンライン画像に頼らず、ガイドラインに基づいた測定法を学ぶ。

読者が明日からできることとしては、自宅で測定する際に「背もたれに寄りかかり、前腕を机に置き、足を床に平らにつける」 というシンプルな動作を徹底することが挙げられます。


新規性

過去の研究は、臨床現場での誤測定の実態やその影響を扱うことが多く、「オンライン画像の正確性」 に焦点を当てたものは存在しませんでした。本研究は、ストックフォトという情報源を体系的に分析した初の報告であり、デジタル時代の健康教育における新たな盲点を明らかにしました。


Limitation

  • 写真からは安静時間や測定回数、カフサイズの適合などを評価できなかった。
  • 多くの写真は教育目的で制作されておらず、誤りは意図的ではない。
  • 写真の一部は構図が不完全で、全項目を確認できない場合があった。

結論

オンラインに氾濫する血圧測定写真の大半は、国際ガイドラインに従っていません。この誤った視覚情報は、患者・市民・医療従事者の行動に影響し、正確な血圧管理を妨げる可能性があります。医療情報の信頼性を高めるためには、テキストだけでなく画像の正確性にも注意を払うことが不可欠です。


参考文献

Aminde LN, Islam FMA, Cheng VE, Saad C, Li Y, Schutte AE. Poor Accuracy of Blood Pressure Measurement Images Online: Implications for Public Health Education. Hypertension. 2025;82:00–00. doi:10.1161/HYPERTENSIONAHA.125.25064.

参考

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